逆風の街 :: 今野敏

2021年8月12日

今野敏

『逆風の街』は『横浜みなとみらい署暴力犯係シリーズ』の第一弾であって、諸橋と城島という二人のマル暴刑事の活躍を描く痛快警察小説です。

闇金融からの取り立てに警察も取り合ってくれず、つい取り立てにきたチンピラに手を出してしまった寺川祥司のもとに、暴力犯対策係の諸橋と城島と名乗る刑事たちがやってきた。

一方、警察も潜入捜査官が殺されるという事件が起き、騒然としていた。

「横浜みなとみらい署暴力犯係」シリーズの主人公は、「ハマの用心棒」と呼ばれている神奈川県警みなとみらい署組対課暴力犯係係長の諸橋夏男警部補と、その相棒である係長補佐の城島勇一警部補というコンビの活躍が描かれています。

そして、その第一弾である本書『逆風の街』は、諸橋と城島を中心とする暴力犯係が運転資金を借りたために闇金に食いつかれて困り果てている一般市民を助けるという話です。

そこでは、夜逃げ一歩手前の一般市民を助けるヒーローとしての警察の姿があるのですが、じつはその姿こそが警察の本来あるべき姿でしょう。

しかし、現実は事件数の多さや警察官の数の少なさなど、細かな事件にまで構っていることができないという現状が、警察が本来あるべき姿をとれないでいると思われます。

本書『逆風の街』はそうした現実を踏まえながら、痛快小説によくみられる正論が正論としてそのままに生きている世界を警察小説として貫いている物語です。

そして、本書ではそこに潜入捜査官の話を絡めてエンターテイメント小説としてさらに面白さを増した物語が提供されています。

組織の存続のためには一個人としての警察官の命は二の次になるという話です。

さらに言えば、本シリーズでは古風であり、筋目を通すヤクザが登場し、諸橋の影の協力者的な立場で裏社会の情報をもたらしてくれています。

このような面白い小説としての構造をきちんと持ち、その上で今野敏の作家としての力量が描き出す会話の魅力などが相まって、非常に面白く読み応えのある作品が生み出されているのです。

本書『逆風の街』はそのような魅力を持つ楽しみなシリーズの始まりであり、今後の展開が期待されます。