冬の狩人 :: 大沢在昌

2021年11月7日

狩人シリーズ

本書『冬の狩人』は、『狩人シリーズ』の第五弾となる長編のハードボイルド小説です。

本『狩人シリーズ』は、大沢在昌のシリーズでは新宿鮫シリーズと同じほどの期待を持って読むシリーズであり、本書は待ちに待った作品でした。

三年前、巨大企業のモチムネの企業城下町のH県第三の都市の本郷市の冬湖楼で、本郷市長ら三人が殺害され、上田弁護士の秘書阿部佳奈が行方不明になる事件が起きた。

本郷市の市長にはH県警幹部キャリア警察官が就任するという習わしがあったところから大規模な捜索を受けたにもかかわらず、阿部佳奈の行方はわからなかったのだ。

そして今H県警に、新宿署にいる佐江刑事の保護があれば出頭するという、阿部佳奈を名乗るメールが届いた。

H県警は、阿部佳奈との関係が不明な佐江の監視役として、新人刑事の川村芳樹巡査を張り付かせのだった。

本書『冬の狩人』は相変わらずに大沢節がさく裂したハードボイルド小説です。

ただ、この『狩人シリーズ』は佐江刑事の物語ではあっても、本来はその巻の中心人物の脇を固める位置にいた筈が、次第に佐江本人が物語の中心に位置するようになり、本書も佐江自身の物語となっています。

また、これまでの『狩人シリーズ』からすると、本書は特に『狩人シリーズ』ならではという特色は薄れているように思えます。

巻ごとに特色のある登場人物が出てきて、その登場人物ならではの働きをしていた頃に比べると、本書では佐江自身が中心になって動いているためか、普通の警察小説、ハードボイルド小説になっていると思えるのです。

言い換えれば、中心となる人物が誰であっても成立する物語になっていると感じるのです。

とはいえ、もちろん本書が面白くないというわけではありません。

あくまで一匹狼である佐江のスタイルは魅力的であり、佐江の監視を言いつかった新米刑事の川村芳樹巡査などが佐江の捜査に次第に魅せられていく姿は見どころの一つでしょう。

また、佐江ならばと指名してきた三年前の冬湖楼で起きた殺人事件の目撃者である重要参考人の阿部佳奈も謎が満載なのです。

当時は現場から逃げだし行方不明となってたのに何故今になって出頭してきたのか、また佐江を指名してきたのは何故か、など阿部佳奈に関し隠された秘密が次第に明らかにされていく様子も読ませどころです。

本書『冬の狩人』は、大沢在昌らしいミステリーであり、ハードボイルド小説です。

ただ、若干私の好み微妙に異なり、当初の雰囲気と変化してきたと感じるだけです。