雨の狩人 :: 大沢 在昌
本書『雨の狩人』は、『狩人シリーズ』の第四弾となる長編のハードボイルド小説です。
新宿のキャバクラで高部という不動産会社の社長が殺された。
事件を捜査するうちに、佐江と谷神は新宿の場末の飲み屋街であるオレンジタウン一帯についての地上げの動きがあることを嗅ぎつけるが実体がなかなかつかめない。
それでも調べが進む中で日本最大の暴力団である高河連合が動いていることが判明し、オレンジタウンを舞台とする大きなプロジェクトが動き出そうとしていることを掴む。
一方、フィリピンから苦労の末に日本に来た少女プラムが物語に絡んでくるのだった。
狩人シリーズの第四弾となる本書は、第三弾の『黒の狩人』あたりから、佐江刑事個人の物語へと変化してきたように思えます。
これまでの狩人シリーズでは、佐江はあくまでも主役ではなく脇に回っていたのですが、それが佐江個人に光が当たってきているのです。
その点に関しては個人の好みの問題であり、賛否両論あると思います、個人的には脇に回った佐江の物語を読みたい気がするのです。
それはともかく、本書では警視庁捜査一課に所属する谷神という刑事が佐江の相棒として登場してきます。
この男が佐江とは全くタイプが異なる男であって、スマートな外見を持ちつつクールな雰囲気であるのがいい。
この物語の主役の一人として登場するのですから、当然のように何らかの過去を持つ男としてあります。
この谷神と佐江とが、新宿で発生した不動産会社社長の殺人事件が新宿オレンジタウン一帯についての地上げに絡んだ者であることを探り出すのです。
佐江らによって、この地上げは日本最大の暴力団である高河連合が絡んでいることが明らかにされますが、そこに登場する延井という男が存在感があります。
佐江と谷神、そして延井、加えて殺し屋。本書ではこれに加えてプラムというフィリピンの娘が登場し、この娘の話がサブストーリーとして語られるのです。
この話が本筋に合流し、佐江と谷神に交錯するとき、悲哀に満ちた物語となるのですが、この運びがいい。
佐江を中心として、極道までもまじりあう中で男たちの物語が浮かび上がってくるこの物語は、いかにも大沢作品らしく読み手を飽きさせません。
脇に回った佐江が登場する作品の方がいいとが言いながらも、やはり大沢ハードボイルド作品は読みごたえがある、というのが本音です。
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