北の狩人 :: 大沢 在昌

2019年10月7日

狩人シリーズ

本書『北の狩人』は、『狩人シリーズ』第一作目の長編のハードボイルド小説です。

文庫上下巻で七百頁近いという長さを感じさせない、面白さ満載の大沢在昌ならではのエンターテイメント小説です。

父親が殺された理由を探りだす、その一念で新宿の街に現れた梶雪人は、「田代組」という手がかりだけを頼りにヤクザに声をかけて歩いていた。

それを見た新宿署の佐江刑事は、この男に何となく気になるものを感じ、何かと手を貸すのだった。

この物語の主人公は田舎から出てきたらしい純朴そうな、しかし鍛え上げられた身体を持つ青年です。この男が新宿の街で、今は無くなった「田代組」という暴力団について聞いて回っているのです。

その様子に気付いたのが、このシリーズの通しての主人公である新宿署の佐江という刑事であり、この若者が暴力団について聞いて回る理由について関心を持ちます。

本書『北の狩人』の冒頭から焦点の当たるこの若者が実に好青年であり、大沢作品の主人公らしく強く、たくましさを持った人物として描かれています。

その若者がヤクザに喧嘩を売って歩くのですから、何事かと思わずにはいられません。当然、読者の関心は一気に惹きつけられます。

この若者の素性、そして目的は割と早めに判明するのですが、その時期を境として読者の本書に対する期待は裏切られることになります。

つまりは、新宿鮫にも似た新たな物語の創造だと思われた作品が、平均的なアクション小説と変わってしまう印象なのです。

だからと言ってこの物語が面白くなくなるのではありません。大沢在昌の普通の面白さを持った小説ではあるのですが、それ以上の傑作になるとの期待がなくなったということです。

それだけ大沢在昌という作家に期待をしているということであり、本書の主人公の梶雪人というキャラクターが魅力的だったということでしょう。

ただ、この『狩人シリーズ』は続きます。

もっとも次巻の『砂の狩人』の内容を見る限り、佐江刑事だけがいて梶雪人という人物は登場せずに別の人物が中心となります。

つまりは佐江刑事が狂言回しとなって、巻ごとに別な人物が中心とした物語が展開するということでしょう。

なにはともあれ、期待したいものです。