連鎖 :: 真保 裕一

2019年8月24日

連鎖

本書『連鎖』は、我が国の「食」の問題をテーマにした長編のミステリー小説です。

食物の輸入過程を追及していく様はなかなかに好奇心を満たす、ユニークな冒険小説です。

元食品Gメンであった過去を持つ検疫官の羽川は、親友であるフリーライターの竹脇が自殺を図ったという連絡を受け、竹脇の自殺の原因を作ったのは竹脇の妻と不倫関係に陥った自分なのだろうと煩悶していた。

同じ頃、羽川は倉庫に農薬を撒かれたファミリーレストランに調査に行くが、肉の検査をしようとしても店の拒否にあい、何もできないでいた。

しかし、その裏を調べていくうちに、竹脇も同じ筋の事件を追いかけていたらしく、あちこちで竹脇の名前にぶつかるのだった。

何といっても、本書の魅力は輸入食品の流通過程を追う羽川の行動であり、竹脇の行動の謎を追うその様子は良質の冒険小説の面白さを備えていると言えます。

第37回江戸川乱歩賞を受賞しているのももっともだと思えるのです。

本書の背景には、1986年4月に起きたチェルノブイリ原発事故による放射能汚染問題などを抱える食料問題があり、近年わが国でも問題になった食品偽装問題も当然その視野に捉えていると言えます。

ただ、そうした社会的なテーマを抱えていることもさることながら、エンターテイメント小説としての面白さを十二分に備えているからこそ社会的なテーマも浮かび上がってくると言えるのでしょう。

物語としての面白さを堪能できる小説だと思えるのです。