約束の地 :: 樋口 明雄

2019年8月10日

約束の地

本書『約束の地』は、自然と人間との共存をテーマにした長編の冒険小説です。

かなり骨太の読みごたえがある作品であって、第27回日本冒険小説協会大賞、第12回大藪春彦賞をダブル受賞している。

人里近くでの傍若無人な行いをするハンターに注意をしたとあるペンションのオーナーが、娘の眼の前で射殺されるところから物語の幕が開く。

十数年後、環境省エリート役人である七倉は、一人娘と共に野生動物被害を調査し対応する公的機関である「野生鳥獣保全管理センター」の八ヶ岳支所に出向となり、赴任してきた。

そこには古参の猟師であった戸部や黒崎を始め、峰と新海という犬のハンドラー(訓練士)やハンドラーのトレーナーであるクレイグ、女性動物学者の神永麻耶など古瀬的な面々が揃っていた。

近年野生動物による農作物の被害は甚大なものになっていたが、加えて熊による人的な被害も起きていた。そうした折、「稲妻」と呼ばれる巨大熊により人が食い殺されるという事件が起きる。

農民の声を背景に害獣の殺傷処分に走ろうとする狩猟会、それに反対する動物愛護団体。七倉は住民たちの調整に奔走するが、更なる怪物「三本足」の登場など、事態は悪化の道をたどっていく。

本書『約束の地』は、ある意味実にぜいたくな小説だということができるかもしれません。

というのも、本書はいわゆる冒険小説と言えるでしょうがミステリーの要素も持ち、加えて動物小説や家族の物語の要素も持っているからです。

抱えるテーマも多様で、自然に対する著者の思い入れが随所に見られ、人間と自然との共存を主軸に、環境汚染や猟友会の問題、加えて家族についての考察なども含んでいます。

読み込めばかなり深いところまで議論できそうな物語ですが、エンターテイメント小説としてもよくできており、先にあげたテーマなど考えずに読み進めることもできます。

ただ、その場合でも大きく問題提起してあるので全く無視ということはできないかもしれません。

それでも、楽しく読み進めることはできると思われ、いや、楽しく読めばいいのではないか、そうも思える小説でした。