カディスの赤い星 :: 逢坂 剛

2019年9月18日

カディスの赤い星

本書『カディスの赤い星』は、日本とスペインを舞台にした長編の冒険小説です。

スケールの大きな、読みごたえのある面白い作品であり第96回直木賞、第40回日本推理作家協会賞、第5回日本冒険小説協会大賞を受賞しています。

小さなPR会社を営む漆田亮(うるしだりょう)は、最大の得意先である日野楽器の河出広報担当常務から、スペインから来日するホセ・ラモス・バルデスの依頼を受けるように頼まれた。

二十年前にホセの工房にやってきた日本人ギタリストを探してほしいというのだ。

その後、ラモスと共に来日したラモスの孫娘フローラの日本で引き起こした問題もあって、漆田はギタリストを探してマドリードへと旅立つことになるのだった。

本書『カディスの赤い星』の特徴を挙げるとすれば、まずは登場人物の会話の妙、面白さにあると言えるでしょう。

それは、これまでの日本の小説にはあまり無い、と私には思えた粋さ、カッコよさであり、いわゆるハードボイルド小説で見られる台詞のカッコよさにも通じるものでしょう。

特に主人公漆田の女性との軽妙な会話には惹き込まれるものがありました。

本書の特徴としては、次に文章の客観性を挙げることができます。

日本のハードボイルド小説の第一人者の一人である志水辰夫に見られる情緒的な文章とは対極の文章と言えます。

少なくとも本書においては主人公の主観的な心情は描かれていません。

次いで、フランコ政権下のスペインというそのスケールの大きさを挙げることができます。

21世紀に入っている現在からすると少々舞台設定が古いと感じるかもしれませんが、読んでみると決して古さを感じさせない物語です。

1980年デビューの逢坂剛という作家ですが、本書は1986年に出版されている初期の作品です。

それでいてこれだけの作品を書くのですから逢坂剛という作家の地力の強さを知ることができるでしょう。

何にしろ、とにかく面白い小説だといえるのです。