ことり屋おけい探鳥双紙 :: 梶よう子

2019年9月27日

ことりや

江戸時代に小鳥をペットとして飼育することを「飼い鳥」と言ったそうです。

本書『ことり屋おけい探鳥双紙』は、そのペットとしての小鳥を商う飼鳥屋(かいどりや)である「ことりや」の女主人おけいを主人公とする連作の人情小説集です。

亭主の羽吉(はねきち)が、夜になると胸元が青く光る鷺(さぎ)を探しに旅立ってから三年が経つ。

羽吉と同道した旗本お抱えの鳥刺しは一人で江戸に帰ってきていたが、羽吉とははぐれてしまい消息は判らないという。おけいは、羽吉のいない年月を「ことりや」を守ることに捧げているのだ。

ある日十五、六ほどの娘が紅雀(べにすずめ)、相思鳥(そうしちょう)、十姉妹(じゅしまつ)と次々と鳥を購っていった。

小鳥が好きでも無さそうなその娘が次に来たときに、「あなたには、もう小鳥はお売りできません」と告げるおけいだった。

おけいの営む「ことりや」には、客として『南総里見八犬伝』の曲亭馬琴や北町奉行所の定町廻り同心である永瀬八重蔵などもやってきています。

そして、彼らの鳥にまつわる謎が絡んだ話を聞いたおけいはその謎を解き明かし、それとともにその謎に隠されたさまざまな人間模様が明らかにされるのです。

本書『ことり屋おけい探鳥双紙』で明らかにされる謎には、他の捕物帳的な人情時代小説で起きるような事件はなく、そういう意味では物足りないと思われるかもしれません。

本書で明らかにされる人間模様は市井に暮らす庶民の普通の生活で巻き起こる事柄であり、激しい悪は登場しないのです。

しかし、作者のあたたかな語りはそうした事柄に潜む人間のぬくもりを描き出し、小さな感動を示してくれるのです。