焦眉 警視庁強行犯係・樋口顕 :: 今野 敏

2019年11月27日

今野敏

本書『焦眉 警視庁強行犯係・樋口顕』は、『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』の第六巻目となる長編の警察小説です。

ちかごろ読んだ今野敏の小説の中ではベストの面白さを持つ小説だと思います。

警部昇任試験に受かった氏家と久しぶりに会い、氏家が警視庁生活安全部の少年事件課から二課の選挙係へと異動になった話を聞いた。

その後、世田谷で相沢和史という男の殺人事件が発生し、北沢署に捜査本部が設けられた。そこに、二課長の柴原久雄警視正と氏家、それに東京地検特捜部の検事二名が加わってきた。

捜査本部に何故検事がいるのかという声に、柴原は話を知るものを限定するという条件で、衆議院議員の秋葉康一に的を絞った検察官が、本捜査本部の事案を秋葉陣営の不祥事とし、秋葉の議員資格をはく奪する目的で参画していると知る。

具体的には秋葉の秘書が事件現場近くの防犯カメラに写っていた事実をもとに、秋葉の秘書を犯人と仕立て上げようとしていた。

本書『焦眉』の面白さは、樋口が属する警察と、検察権力との対決という点にあると思います。

単なる推理小説としての警察小説、つまりは警察の捜査およびその捜査に基づく推理の過程を楽しむものではないということです。

ある殺人事件の捜査本部に参加する二人の検察官の目的を知った樋口を中心とした現場の警察官らはそのことに反発し、彼らの思惑を阻止しようとします。

すなわち、警察は単に国家権力の暴力装置としてあるのではなく、国民生活の安寧を保持するためにこそある、というのです。

そうした流れは、結局はヒーロー小説の爽快感にもつながり、現場の警察官が検察の横暴を阻止するというカタルシスをもたらしてくれると思われます。

警察と検察の対立を描く以上は、一歩間違えば特定の政治的なイデオロギーの渦の中に巻き込まれても仕方のない構造ではあるのですが、本書『焦眉』では、その点については今野敏という作家のうまさで、うまく処理してあります。

ただ、敵役として登場する検察官らはかなりその権力行使の模様などについてかなりデフォルメしてあるため、少々突っ込みたくなるところが少なからずありました。

検察官個人が一般国民や警察官に対し「地方警察ごとき」や「おまえら刑事」といった言動を吐くなど考えられないところでしょう。

でも、そうした点を今野敏独特の軽い流れでこなしているために、それほど大きな瑕疵とはなっていないと思われます。

本書『焦眉 警視庁強行犯係・樋口顕』では、主人公の内心、思惑はかなり警察官としての行動からは外れたものとなっていますが、今野敏の考える警察官のありようをさりげなく忍ばせながら描写してるところに、読者としては喝采を送りたくなると思われるのです。