疫病神 :: 黒川 博行

2019年8月17日

疫病神

本書『疫病神』は、『疫病神シリーズ』の第一巻であり、緻密な書き込みによって濃密なリアリティを醸し出していながら、関西の漫才のノリでスピーディに展開する長編ピカレスク小説です。

ほかに続くこのシリーズとともに実に面白い小説だということができます。

建設コンサルタントの二宮啓之は富田林の産業廃棄物の中間処理業者である小畠総業の小畠一三の訪問を受けた。

富南市(とうなんし)の天瀬(あませ)に廃棄物を埋める最終処分場を作る計画があるが、地元の水利組合がごねているという。

そこで、その組合長の印鑑を貰うために組合長の弱みを探ってほしいというのだ。

高額の報酬につられた二宮はその仕事を引き受ける。

しかし、巨額の金が動く処理場の開発には様々な思惑が絡み、また、二宮が仕事を依頼してる二蝶会の桑原保彦という男が金の匂いを嗅ぎつけてしゃしゃり出て来るのだった。

本書『疫病神』の特徴はそのままこの『疫病神シリーズ』の特徴でもありますが、それは二宮啓之と桑原の二人の、関西弁もそのままに繰り広げられるテンポのいい会話にあると思われます。

特に桑原という男、それは二蝶会というヤクザの組員なのですが、この男のキャラクターが実にいい。

もう一人の主人公である経営コンサルタントの二宮啓之という男もギャンブルの借金で首が回らないというどうしようもない男で、桑原に付きまとわれながらも、助けられたりもするいいコンビなのです。

本書『疫病神』で描かれる産業廃棄物の再封処理場建設などは利権の塊のような案件であり、どこまで本当なのかは不明ですが、暴力団が目を付けない筈がないという話を聞いたことがあります。

カネの臭いのするそんな案件を舞台に、二宮と桑原とがゼネコンなどの巨大企業、直接には暴力団を相手に大金をせしめるべく悪知恵を働かせ、ときには危ない目にも合うのです。

作者のユーモラスな筆は、そうした殺伐とした物語をコメディタッチの物語として仕上げています。

シリーズ続巻を読んでみたいと思わせられる作品です。

この二宮と桑原のコンビの物語は、『疫病神シリーズ』五作目の『破門』という長編小説で第151回直木賞を受賞していることからしても本書『疫病神』および『疫病神シリーズ』の面白さが分かるのです。