まほろ駅前多田便利軒 :: 三浦 しをん

2019年11月6日

多田便利軒

本書『まほろ駅前多田便利軒』は、『まほろ駅前シリーズ』の第一作目となる長編の痛快小説で、第135回直木賞を受賞した作品です。

非常に読みやすく、それでいて妙に心に残る物語で、私の好みに合致する作品でした。

主人公はもう青年とはいえない多田啓介という便利屋だ。

この便利屋に、とあることから多田の高校時代の同級生の行天春彦という男が加わることとなる。

ところが、この行天という男のユニークさは群を抜いており、この『まほろ駅前多田便利軒』という物語の性格を決定づけているのだった。

まほろ駅前多田便利軒』は、東京都の町田市をモデルとした「まほろ市」という架空の町を舞台とした物語です。

この町で便利屋を営む多田啓介行天春彦という二人の、親殺しや赤ちゃんの取り違えなどという重いテーマを抱えた依頼の仕事をこなしていく姿が描かれています。

どこかペーソスの漂う二人の暮らしぶりを、この作者特有の読みやすい文章で綴ってあるのです。

また、この行天という男、とにかく普通の感覚ではついていけないユニークさを持っていて、その言動に振り回されることになります。

この二人のそれぞれのプライベイトな部分にはどことなくの秘密めいたものがありますが、そうした事情が少しずつ明かされていく様子がまた惹かれるのです。

ただ、作者がライトノベル出身であるためか、文章が軽く薄っぺらいという批評があるかに聞きますが、読みやすいことは大切であり、ただ読み手の感覚の違いでしかないと思います。

読みやすく、しかし内容は決して平板ではないこの物語の続編を読みたいと強く思う、そうした作品でした。