妖の掟 :: 誉田哲也

2019年11月3日

妖シリーズ

本書『妖の掟』は、「妖シリーズ」の第二巻目となる長編の伝奇アクション小説です。

エンターテイメント小説としては面白い物語だといえますが、誉田哲也作品の中では特別なものではないと感じました。

それまで住んでいたぼろアパートを追い出された紅鈴欣治の二人は、チンピラに痛めつけられていた辰巳圭一という男を助け、彼のアパートに転がり込むことになる。

その辰巳圭一という男は、暴力団に指示されるままに盗聴器を仕掛けたりしていたが、そのうちに様々な情報の収集なども請け負うようになっていた。

ところが、暴力団の抗争の激化と共に、とんでもないことを命じられ、どうしようもなくなっていく辰巳圭一だった。

本書『妖の掟』は、前巻『妖の華』の前日譚であり、『妖の華』の中での会話に出てきていた「大和会系組長連続殺害」事件の詳細を一変の物語として仕上げたものです。

そもそも『妖の華』は作者誉田哲也のデビュー作であり、第2回ムー伝奇ノベル大賞優秀賞を受賞した作品であって、その章にふさわしい面白さを持っていた作品だといえます。

作者によれば、先に書いた『妖の華』での組長連続殺害事件についてそれなりのイメージを持っていた、とのことなので、それが十七年後に書かれたとしても何も不思議ではなさそうです。

本書『妖の掟』が、誉田哲也作品の中であらためて取り上げて評価するほどの作品かと言えば首をかしげざるを得ませんが、本書のみを取り上げればそれはやはり面白小説だという他はありません。

当然のことではありますが、和風の吸血鬼物語として、ニンニクや十字架には強いものの、太陽光線、特に紫外線には全く弱い吸血鬼が、その強靭な身体能力を生かしてのバイオレンスアクションを見せるます。

加えて、人形と見まがうほどの美貌の持ち主の紅鈴が繰り広げるエロスの場面と、伝奇アクション分野でのエンターテイメント小説としてはこれ以上ない設定ともいえるのです。

つまりは、エロスとバイオレンスが好みではないという人以外は、それなりに楽しむことのできる作品だといえるのです。