海よかもめよ-紀之屋玉吉残夢録(3) :: 水田 勁

2019年7月10日

紀之屋玉吉残夢録

『紀之屋玉吉残夢録シリーズ』の長編痛快時代小説の第三弾。

シリーズで初めて江戸を離れ、下総へやってきた玉吉が、ハードボイルドタッチ満載で活躍する。

江戸での知り合いであるお店の小僧万吉の兄が強盗一味の手によって殺された。玉吉は自暴自棄になっている万吉のために、万吉の兄を殺した犯人を探して下総までやってくる。

下手人たちが潜んでいると思われる奥畑村のばんげ浜は、網本の泉州屋六兵衛の支配下にあって、鰯漁をめぐって仇敵である三輪村の網本の八橋常右衛門と対立している寒村だった。

玉吉は顔もよく分からない下手人たちをあぶりだすためにも村同士の争いに飛び込んでいくのだった。


下総のとある寒村で、二つの村が対立していたが、その一方の村に万吉の兄を殺した犯人が転がり込む。

そこに主人公玉吉が犯人たちを捜して乗り込み、二つの村の対立を利用して犯人たちをあぶりだす、という流れだ。

まさに、黒澤明の「用心棒」の世界であり、ハメットの『血の収穫』の場面に他ならない。

もちろん、細かなストーリーは全く異なるのだけれど、江戸時代を舞台にしたハードボイルドだと言える。

このシリーズ自体がもともとハードボイルド小説の香りが深い小説だったのだが、本書『あばれ幇間』はまさにハードボイルドそのものと言える。

なかなかにユニークなシリーズだが、余すところあと一冊しか出版されていないというのが寂しい。